社会課題は、構想を描くだけでは解決できない。
企業の成長、地域の再生、行政の変革―どれも一つの組織、一つの施策だけで動くものではなく、多様なプレイヤーを巻き込みながら、現場で実装し続けて初めて変化が生まれる。
合同会社デロイト トーマツ(以下、デロイト トーマツ)におけるファイナンシャルアドバイザリーのSocial Designは、そうした複雑な社会課題に向き合い、企業、自治体、中央省庁、金融機関などをつなぎながら、構想から実行まで伴走する組織だ。
今回は、Social Designの前身である地域産業振興支援室を立ち上げ、現在は公共領域を統括する佐藤 公則氏、地域産業の振興・再生支援と地域中核企業創出を担う坂口 剛 氏、そしてAIやDXを軸に行政・公共分野の変革を推進する谷井 宏尚 氏に、組織が描く未来と、そこで働く魅力について話を聞いた。
点の支援から、社会を動かす「面」の支援へ

まず、Social Designはどのような思想のもとで生まれた組織なのでしょうか。
ただ、地域の企業や自治体、金融機関と向き合う中で、個社だけを支援しても限界があると強く感じるようになりました。例えば、企業の内部環境をいくら改善しても、その地域で人口減少が進み、人材が流出し、産業基盤が弱くなっていけば、その企業だけが継続的に成長するのは難しい。企業を本当に元気にしようと思ったら、内部だけでなく、企業を取り巻く外部環境まで変えていく必要があるのです。
そこで私たちは、企業だけでなく、地域金融機関、自治体、さらには中央省庁も巻き込みながら、地域全体の事業環境や社会基盤をどう良くしていくかに踏み込むようになりました。個社を支援する「点」のコンサルティングから、地域や社会全体を動かす「面」のコンサルティングへ。Social Designは、その延長線上で生まれた組織です。
全国には1,700を超える自治体があり、中央省庁もそれぞれ巨大な組織です。加えて、AIをはじめとする技術革新や社会変化のスピードは、これまでとは比べものにならないほど速い。そうした中で、地域だけを見ていても、企業だけを見ていても、本質的な解決にはたどり着きません。企業、行政、金融機関、コミュニティなど、さまざまなプレイヤーをつなぎながら、社会全体をどう良くしていくのか。その視点が必要になっているんです。
私たちが目指しているのは、単にクライアントの課題を解くことではなく、企業が育ち、地域が元気になり、社会そのものが前に進む状態をつくること。そのために必要なところへ、自ら入り込んでいく。それがSocial Designの原点です。
なぜ「Social Design」なのか

組織名にも、その考え方が表れているように感じます。
今の時代は、過去の延長線上で未来を予測するだけでは不十分です。AIをはじめ、技術や社会の変化があまりにも速い。正直、私たちが今の発想では想像できない世界が、これから当たり前になる可能性のほうが高いと思っています。
だから必要なのは、単に「このままいけばどうなるか」を分析することだけではありません。むしろ、「どんな未来を実現したいのか」を描き、その未来に向けて今何を変えるべきかを考えることです。
私はよく、左脳だけでなく右脳も必要だと言っています。もちろん分析は大事です。でも分析だけで未来は生まれない。想像し、構想し、その実現に向けて組織や社会のあり方まで変えていく。その一連の営みこそが、私たちにとってのDesignなのです。
未来を描くこと、その未来に向けて自分たちも変わり続けること、そして描いたものを実際に社会の中で動かしていくこと。私にとっての「Design」とは、そうした一連の営みそのものなのです。
良い戦略だけではなく、「実現すること」にこそ価値がある

Social Designの話を聞いていると、 “実行”という言葉が何度も出てきます。なぜそこまで実行にこだわるのでしょうか。
これからAIがさらに進化すれば、情報整理や資料作成、戦略のたたき台づくりは、今以上に効率化されていくはずです。一方で、人を動かし、組織を動かし、地域を動かすことは、簡単には代替されません。なぜなら、そこには信頼関係や熱量、共感が必要だからです。
実際、現場では合理性だけで物事が動くわけではありません。以前、これは良いプランだと思って持っていった提案が、まったく進まなかったことがありました。
理由を丁寧にひも解いていくと、関係者同士のこれまでの経緯や、地域の中で長く積み重なってきた関係性が影響していることもあります。さらに遡ると、その背景には何十年、時には百年単位で受け継がれてきた地域の歴史や文脈が関わっているケースもあるのです。でも、地域や社会を動かすとは、そういう現実と向き合うことでもある。正しいことを言ったから進むわけではないし、良い戦略だから受け入れられるわけでもない。誰が、どう関わり、誰と一緒に進めるのかが極めて重要なのです。
だから私たちは、提案書を渡して終わる仕事はしません。大切なのは「何をやるか」だけでなく、「誰とやるか」。現場に入り込み、一緒に考え、一緒に汗をかく。そこで初めて、計画には書かれていない障壁や、関係者の本音、動かすべきポイントが見えてきます。
月に一度訪問して「進捗どうですか」と聞くだけでは、本質的な変化は起きません。地域によっては席を置かせていただき、半ば常駐に近い形で関わることもあります。そうやって小さな成功体験を一つずつ積み重ねることで、「それなら次もやってみよう」という空気が生まれ、やがて大きな変化につながっていく。そこまでやり切ることに、私たちの価値があると思っています。
こうした環境で働くことで、どのような経験や成長の機会があるのでしょうか。
例えば、自治体の首長や中央省庁の担当者、地域企業の経営者と直接議論する機会も少なくありません。一般的には経験を積まなければなかなか関われないようなテーマに、早い段階から挑戦できます。また、扱うテーマも非常に幅広い。地域創生、企業成長、行政DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)、官民連携など、さまざまな領域を横断しながら経験を積むことができます。
その過程で、戦略を描くだけではなく、それを実現するために人を動かし、組織を動かし、社会を動かす経験ができる。私は、そこに他にはない成長機会があると思っています。
政策と現場を往復しながら、地域を前に進める

坂口さんが率いる「地域産業振興・再生支援」と、「地域中核企業創出」は、どのようにつながっているのでしょうか。
ただ、実際にはこの二つは行き来しています。企業に伴走する中で、新たな地域課題や政策課題が見えてくることもあるし、逆に地域産業振興で生まれた政策や仕組みが、企業の成長を後押しすることもある。つまり、政策から現場へ、現場から政策へと循環しているのです。
地域を本当に前に進めようと思ったら、どちらか一方だけでは足りません。地域全体のアジェンダを描きながら、企業や現場の実装にも入り込む。その往復運動にこそ、Social Designの特徴があると思います。
テーマは無限。大切なのは「何を解くか」ではなく「どう解くか」
「地域産業振興・再生支援」では、どのようなテーマを扱っているのでしょうか。
例えば最近であれば、部活動の地域移行もその一つです。一見すると教育の話に見えますが、実際には地域にどんな担い手がいるのか、コミュニティをどう維持するのか、持続可能な運営体制をどうつくるのかという、地域の構造的な課題につながっています。ほかにも新規就農支援やGX推進など、テーマはさまざまです。
ただ、私たちにとって重要なのは、テーマそのものよりも「その地域にとって今、何が本当の課題なのか」を見極めることです。コンサルタントとして大事なのは、与えられたテーマをこなすことだけではなく、問題設定そのものを行うこと。クライアントが認識している課題とは別に、もっと優先すべき論点があることも少なくありません。だからこそ、現場に入り込みながら、次のアジェンダを提案していくことも私たちの役割だと思っています。
実行まで関わるから、変化の瞬間に立ち会える

この仕事ならではのやりがいはどこにありますか。
その点、今は違います。現場に入り込み、人や組織と一緒に動きながら伴走する。その結果、新しい活動が生まれたり、人が動き始めたりする瞬間に立ち会えるのです。机上で終わらず、自分たちが関わったことで地域が変わっていく。その実感は大きいですね。
経営者の隣で、本当の課題を見つける
もう一方の「地域中核企業創出」では、どのような対象に支援を行っているのでしょうか。
特徴的なのは、最初から課題が明確になっているわけではないことです。大手企業を支援する一般的なコンサルティングでは、「この課題を解決してください」という依頼から始まることが多いと思います。一方で、50~100億規模の地域企業では、経営者の話を聞きながら、本当の課題は何かを一緒に探すところから始まる。ある意味で、非常にオーダーメイドです。
だから若手メンバーでも、経営者と直接向き合う機会が非常に多くあります。売上100億円を目指す企業の経営者と、膝を突き合わせて事業の未来や組織のあり方を議論する。これはなかなか得られない経験だと思います。実際、若手のうちから経営者と直接議論し、企業の成長戦略や組織づくりを一緒に考える機会があります。だからこそ、成長も早い。トップラインをどう伸ばすか、どんな組織をつくるかなど、経営そのものをテーマに考える力が身につくのです。
成果との距離が近く、「この取り組みがあったから変わった」と実感しやすい領域でもあります。戦略だけでなく、実行まで責任を持って関わりたい人には、とても面白いフィールドだと思います。
AIは行政をどう変えるのか

谷井さんが率いる「デジタルガバメント推進」のチームでは、どのようなミッションを担っているのでしょうか。
行政サービスというと少し遠い存在に感じるかもしれませんが、実際には住民サービス、各種手続き、窓口対応、公共インフラなど、誰もが日常的に関わっているものばかりです。だからこそ、この領域を変えることには大きな社会的意義があります。
私たちが向き合っているのは、単に新しい技術を導入することではありません。AXを駆使し、行政や公共をどう良くしていくか。その結果として、国民の生活をどう変えていくかが主たるミッションです。
もう一つ重要なのは、AXによって変わるのはクライアントだけではないということです。私たちコンサルタント自身の仕事のあり方も大きく変わっていく。だからこそ、AXをクライアントへの価値提供に活かすことと、自分たちの仕事の進め方を高度化すること、その両方に取り組んでいます。
前例主義を超えるには、まず“触ってもらう”こと
行政AX・DXの現場ならではの難しさはありますか。
例えば、自治体の首長や局長クラスの方も巻き込み、AXの勉強会やアイデアソンを実施することもあります。すると、「なぜ今まで使っていなかったんだ」という反応が返ってくることも少なくありません。新しい技術そのものより、人の考えや意識が変わる瞬間が面白いのです。
人の意識が変われば、組織が変わる。組織が変われば、行政サービスが変わる。そこに至るまでのプロセスも含めて、私たちの仕事だと思っています。
レガシーシステムの先にある、住民体験の変革

行政のシステムには長い歴史や定着があるからこその価値なのでしょうね。
ただ、AIにはその問題を解決できる可能性があります。これまでであれば、ロジックの解析や刷新に莫大な人件費がかかるため、塩漬けになっていたものでも、AIを活用すれば解きほぐせるかもしれない。40年、50年動かなかったものが動き出す転換点に、今まさに差しかかっていると感じています。
しかし、私たちが本当に実現したいのは、システム刷新そのものではありません。その先にある国民サービスの向上です。例えば、行政窓口の問い合わせが24時間可能になる、複雑な手続きでも、必要な情報やサービスに直ぐにたどり着けるようになる。そうした変化は、住民にとって「行政との関わり方そのもの」が変わる体験です。
行政職員の側から見ても、事務作業に使っていた時間を、サービスの企画や、より住民に寄り添う業務へ振り向けられるようになる。AXやDXは、システムの話ではなく、人がより価値を発揮できる社会を作るための手段だと私は考えています。
また、この領域の面白さは、技術だけを扱うわけではないことです。AIやDXの知識はもちろん必要ですが、それ以上に行政組織をどう変えるのか、関係者をどう巻き込むのかが重要になります。技術と社会実装の両方を経験できることは、この仕事ならではだと思います。
専門性を閉じ込めない。「動物園」のような組織
お三方の話を聞いていると、テーマは違っても根底にある考え方は共通しているように感じます。
だから、デジタルの専門性がある人にデジタルの仕事だけをしてほしいわけではありません。むしろ、いろいろなテーマに関わりながら、自分の武器をどう活かすかを自分でデザインしてほしい。異なる専門性を持つ人同士が混ざり合い、化学反応が起きる。その余白の大きさが、Social Designらしさだと思います。
Social Designで得られるキャリアとは

Social Designで経験を積むことで、どのようなキャリアを築くことができるのでしょうか。
そのうえで、ここで得られるものは大きく三つあると思っています。
一つ目は、経営人材としての視点です。企業経営に触れることもできるし、政策づくりにも関われる。地域創生の最前線に立つこともできる。事業や組織をどう動かすのかを、実践の中で学べます。
二つ目は、バイネームで指名されるプロフェッショナルになることです。「デロイト トーマツに相談したい」ではなく、「あなたに相談したい」と言われる存在になってほしい。実際に、クライアントが若手メンバーを名指しで指名してくださることもあります。そういう人材を一人でも多く育てたいですね。
そして三つ目は、社会に大きなインパクトを与える経験です。企業、自治体、金融機関、中央省庁など、多くの関係者を巻き込みながら、複雑な利害の中で物事を前に進める。その経験は、コンサルタントとしてだけでなく、その先のリーダーキャリアにとっても大きな財産になると思います。
また、私たちは「やりがいだけで回る組織」を目指しているわけでもありません。公共や地域の世界でも、きちんと付加価値を出し、我々自身も大きな利益を生み、そして持続可能なビジネスモデルを築いていく。その上で、優秀な人材が集まり、次の世代へバトンを渡していける組織にしたいと思っています。
Social Designで活躍する人とは
では、Social Designではどのような人が活躍できるのでしょうか。
若手であれば、何か一つ“一芸”があるといいと考えます。業務知識でも、プロジェクトマネジメントでも、コミュニケーションでも、議論を整理する力でも構いません。まずは自分が価値を出せる軸が一つあると、そこから活躍できるエリアが大きく広がっていくと考えます。
自分たちを超える人に来てほしい
最後に、これからSocial Designを目指す方へのメッセージをお願いします。
だから私たちは、「自分たちを超える人に来てほしい」と思っています。
社会を変える構想を描くだけでなく、自ら社会を動かしてみたい、未来のより良い地域づくりに貢献したい、そんな強い思いを持つ方と、ぜひ一緒に挑戦したいですね。

佐藤 公則(Kiminori Sato)
合同会社デロイト トーマツ パートナー
大手証券会社の投資銀行部門でM&Aや新規上場アドバイザリー業務に従事後、独立を経て現職。企業・官公庁への経営支援、地方創生、官民連携事業を多数手掛ける。2018年に地域産業振興支援室を立ち上げ、現在は公共領域を統括。
坂口 剛(Tsuyoshi Sakaguchi)
合同会社デロイト トーマツ パートナー
大手シンクタンクにて、省庁の政策立案・実行支援、創業支援、事業開発支援などに従事。2024年には能登半島地震の復興支援にも携わる。その後、デロイト トーマツに参画し、地域産業振興・再生支援および地域中核企業創出を担当。地域活性化や社会課題解決に向けた取り組みを推進している。
谷井 宏尚(Hirotaka Tanii)
合同会社デロイト トーマツ パートナー
大手総合コンサルティングファームにて、中央省庁・自治体向けのデジタル戦略、DX推進、AI活用支援を多数リード。その後、デロイト トーマツへ参画。現在はデジタルガバメント推進を担当し、行政・公共分野の変革支援を推進している。