『BluePrint』 – すなわち「青写真」。
デロイト トーマツ ヒューマンリソース(DTHR)が転職支援をさせていただいた、優れたリーダーたちの頭脳に宿る「未来から逆算したキャリア設計」を紐解く連載企画です。
今回ご登場いただくのは、株式会社明日葉(ソシオークグループ)で執行役員 本部長を務める髙柳和貴氏。過労で倒れた経験を機に、彼はなぜ「社会課題」の最前線に身を投じることを選んだのか。その意思決定の原点には、役職ではなく“向き合うべき課題”を選ぶという、彼ならではの一つの「青写真」がありました。介護、保育、そして学童へ。フィールドを変え続けた、彼のキャリア戦略に迫ります。
髙柳 和貴(Kazuki Takayanagi)
株式会社明日葉(ソシオークグループ) 東日本事業本部 執行役員 本部長
リクルートにて事業企画・事業開発に従事し、既存事業から新規事業まで幅広く経験。のちに介護・保育業界の大手企業へ転職し、介護領域におけるPMIや経営改善、子会社経営などを経験した後、保育領域へ軸足を移す。その後、株式会社明日葉(ソシオークグループ)に入社。現在は東日本事業本部 執行役員 本部長として、従業員約5,000名を擁する東日本エリアを統括し、事業運営を担う。
「青写真はなかった」――リクルートで身についた当事者意識

髙柳さんは現在、株式会社ソシオークホールディングス / 株式会社明日葉で、東日本事業本部 執行役員 本部長を務めておられます。いまは大きな組織を束ねる立場ですが、キャリアの出発点にあたる新卒時代には、どんな青写真を描いていらっしゃったのでしょうか。
どんな業界に行きたいとか、どんな仕事をしたいとか、そこまで固まっていたわけではなくて。むしろ、まずは社会人として成長できる環境に身を置きたい、ビジネスマンとして鍛えられたい、という思いが強かったですね。そのため、若いうちから裁量持って働けるイメージのあったリクルートを1社目に選びました。
まずは成長環境を求めていたんですね。リクルートに実際に入社されてみて、その“成長できる環境”という実感はありましたか。
当時、上司に言われたことはかなりメモしていて、いまでも見返すことがあります。自分がマネジメントする立場になったときに、当時教わったことがそのまま活きているんです。僕の引き出しの多くは、リクルート時代につくられたと言ってもいいかもしれません。
その中でも、いまの髙柳さんの仕事の土台になっているものを挙げるとすると、何になりますか。
大きな組織になればなるほど、これは誰がやるんだろう、みたいなことって起きやすいんです。でも、そういうときに「自分の仕事じゃない」と引いてしまうと、結局どこかにしわ寄せがいってしまう。だから、必要なことはまず自分ごととして受け止める。その感覚は、かなり早い時期に身についたものだと思います。
34歳、過労で倒れて初めて問うた「何のために働くのか」
リクルート時代はかなりハードに働かれていたとも伺っています。
新しいものをつくる面白さもありましたし、事業をどう伸ばすか、あるいはどう見直すかまで含めて考える立場だったので、かなり熱量高く仕事をしていたと思います。
なるほど。かなりハードに働いていたんですね。リクルート社は30代半ばで卒業されたようですが、何か心境の変化などがあったのですか。
救急車で、ですか。それはかなり大きな出来事ですよね。その経験が、ご自身の中で何かを変えたのでしょうか。
そこから自分が解決したい社会の課題やテーマを考え始め、浮かんだのが“保育”。自分の人生を振り返ると、サッカーを教えたり、家庭教師のアルバイトをしたり、子どもに関わることが好きだったんだな思ったんです。ちょうどその頃、社会課題として待機児童問題もありました。自分がリクルートで培ってきた経験を、この領域で生かせないかと考えるようになりましたね。
介護から保育へ。言い続けた未来が、役割になった
リクルートを卒業されたのち、現職の前に1社、介護・保育業界の大手企業を経験されているんですね。
介護の領域では、M&A後の統合や経営改善、子会社社長など、かなり多くの経験をさせてもらいました。リクルートで培った、事業をどう伸ばすかだけではなく、どこに課題があるのか、どう構造的に見立てるか、どう手を打つかという考え方は、ここでかなり活きたと思います。
一方で、保育に関わりたいという思いは持ち続けておられた。
“やりたい”と発信し続けながら、まずは目の前の役割をしっかりやり切る。その両方があったからこそ、次につながったわけですね。
「結局のところ先生なんですよ」――現場を知るため、専門学校へ

保育事業に関わるようになってからは、どんなことを大切にされていたんですか。
待機児童問題が解消に向かう中で、保育の世界も「ただ数を増やせばいい」フェーズではなくなっていくと感じていました。これからは、選ばれる園であるために何が必要かが問われる。そのとき、保育の”質”は絶対に重要になると考え、現場理解を深めるために保育士資格の専門学校に通いました。
えっ、専門学校に通われたんですか。それはかなり踏み込まれましたね。
独学ではなく、あえて学校に通われた理由がすごく髙柳さんらしいですね。実際に学んでみて、見えてきたものはありましたか。
どんなに立派な方針があっても、先生が疲れきっていて元気がなければ、子どもに届く価値は変わってしまう。逆に、先生がきちんと働けて、リフレッシュできて、気持ちよく子どもと向き合える状態があれば、それ自体が保育の質につながっていく。実際に現場を見て、その二つは一つなんだと確信しました。
次に向き合うべき課題は、学童だった

そこから今回、ソシオークグループの中核企業である明日葉へ転職されるわけですが、次のフィールドとして学童を選ばれたのは、どんな理由からだったのでしょうか。
保育は待機児童問題の解消が進んでいて、市場環境も変わってきています。一方で、共働き世帯が増える中で、小学生の放課後の居場所はまだ十分ではない。保育園までは何とか入れても、小学校に上がった瞬間に課題が立ち上がるご家庭は少なくありません。つまり、子どもの成長段階に応じて、社会課題の重心が少しずつ移ってきていると考えたんです。
なるほど。ひとくちに学童と言っても、いくつかの事業モデルがあると伺いました。そのあたりについて、少し詳しく教えていただけますか。
2つ目が「民設民営」。施設も運営も民間企業が行うので、自由度が高く、特色ある教育プログラムなどを提供しやすい。ただ、土地や建物の確保といった初期投資が大きくなるため、どうしても高価格帯になりがちで、展開できるエリアも限られてきます。
そして、明日葉が強みを持つのは3つ目、「公設民営」です。施設は自治体が用意し、その運営を我々のような民間企業が担うモデルです。初期投資を抑えながら、民間の持つ人材育成やプログラム開発、安全管理のノウハウを活かせるのが特徴です。
なぜ髙柳さんは、その「公設民営」モデルに特に将来性を感じられたのでしょうか。
明日葉は業界2番手のポジションにいますし、まさに自分が培ってきた経験を活かしながら、社会に大きく貢献できるフィールドだと感じました。
短期決戦となった転職活動。そのスピードが、意思決定を後押しした

今回の転職活動では、当社DTHRの白井が伴走させていただきました。振り返ってみて、どんな点が印象に残っていますか。
面接を終えて明日葉のオフィスから駅へ向かう途中、その整理に時間を使おうと思ってスターバックスに入ったんですが、コーヒーに口をつけた瞬間携帯が鳴って。白井さんからだったので急いで出たのですが、まさかの「面接通過しました!」の一言でした。面接が終わってまだ10分くらいだったので本当に驚きました。
いやいや企業のジャッジも速いが、白井さんの対応も超スピードだなと(笑)。不安な求職者を不安なままにさせない、プロの気遣いがあったのでしょうね。
そうでしたか。髙柳さんにとって、スピード感というのは大事な要素だったのですか?
あとは、条件面の調整も有難かったですね。給与や条件の話って、どうしても求職者自身ではしづらい部分があります。そこを間に入ってスムーズに進めてもらえたのはありがたかったです。
なるほど。面接支援と条件交渉、その両面で伴走できたわけですね。企業側との相性という意味では、いかがでしたか。
最終的には、そうしたスピード感や温度感も含めて、「ここで働きたい」と思えた。結果として、かなり短期間で意思決定に至りました。
入社後にまずやったのは、“変えること”ではなく“知ること”

そして、明日葉に入社され、現在に至ります。実際に東日本を統括する立場に就いてみて、率直な手応えはいかがですか。
明日葉だけでも従業員約11,000人規模で、そのうち東日本に約5,000〜6,000人、約500事業所があります。保育とは違って、学童は自治体との関係性が非常に強いですし、エリアごとに事情も違う。まだまだ分からないことが多いですね。
それだけの規模を見ていくとなると、すぐに何かを変えるというより、まず全体を理解すること自体が大きな仕事になりそうですね。
具体的には、どんなことをされているんですか。
大きな組織を動かすときほど、まず人を理解することが大事だと思っています。派手な成果がすぐに出るわけではないですが、ここを飛ばしてしまうと、その先がうまくいかない。いまはしっかり知ること、つながりをつくることに意味があると思っています。
その先の青写真。役職ではなく、社会課題に向き合い続ける
髙柳さんは“何年後にこういうポジションに就きたい”というキャリアの設計をされてきた訳ではないように感じますが、ご自身ではそのあたりをどう捉えていらっしゃいますか。
では、いま描いている“次の青写真”も、役職や肩書ありきではない、ということですね。
自分がどこで一番価値を出せるか、いま社会がどこで困っているかを見ながら、目の前の仕事をやり切っていく。その先に、次の役割や次のテーマが見えてくるんじゃないかと思っています。

その“社会課題に向き合う”という感覚は、いまのソシオークグループの事業ともかなり重なっていそうですね。
たとえば共働き世帯が増えれば、小学生の放課後の居場所が足りないという問題が起きる。これもひとつの“ひずみ”ですよね。ソシオークグループは、そうした社会のひずみに対して、事業を通じて応えていく会社だと思っています。
学童もそうですし、それ以外の領域も含めて、社会の変化によって生まれた課題に向き合っている。そこはすごく共感していますし、働き甲斐があります。
髙柳さんご自身の持論と、会社の向いている方向が重なっているわけですね。だからこそ、いまの仕事にも強い意味を感じていらっしゃる。
目の前の仕事にコミットし結果を出す、その積み重ねの軌跡が今の髙柳さんを構成しているんですね。 最後に、この企画ならではのご質問です。もしリクルート時代、あのとき、倒れていなかったら。今のご自身はなかったと思われますか?
その問いと向き合わないまま、走り続けていたかもしれない、と。
その結果として、介護、保育、そしていまの学童という領域に来た。振り返ってみると、自分のスキルや経験が、誰かの役に立っていると実感できるこの仕事に出会えたことは、本当に幸運だったと思っています。自分のためだけに働いていた頃より、いまのほうがずっと、仕事が面白いですよ。
ありがとうございます。役職の輪郭は変わっても、向き合うべき課題の輪郭はぶれない。その一貫性こそが、髙柳さんのBluePrintなのだと感じました。今後のご活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

Photo 長田 慶